@ledsun blog

無味の味は佳境に入らざればすなわち知れず

エネルギー効率に優れた食料生産のための無機・生物ハイブリッド型人工光合成システム

で、興味深い論文が紹介されていました。 DeepLで翻訳して読みました。 専門用語がそれらしく翻訳されている点に驚きました。 研究者が厳密に読み解くのに足りるかわかりませんが、素人が読む分には十分でした。

クラミドモナスについて

コナミドリムシという藻があります。 クラミドモナスと呼ばれることが多いようです。

YTakahashi's Page

クラミドモナスは酢酸塩存在下で従属栄養的に生育できる

従属栄養的という表現がよくわかりません。

従属栄養とは - コトバンク

すべての動物とクロロフィルをもたない植物、細菌、菌類の行う栄養形式。他養、有機栄養ともいう。これらの生物体自体には無機物から有機物を合成する能力がないため、植物あるいは他の動物を食物として摂取して栄養源とすることとなる。

クラミドモナスは酢酸塩を食べられるという理解で良さそうです*1

論文を読む

  1. 太陽電池で発電
  2. 電気分解で酢酸生成
  3. 酢酸でクラミドモナスを育てる

と、クラミドモナスを日光で育てるよりも効率良く育てられたということでしょうか? 論文中では次のような記述があります。

CO2電気分解で生成した酢酸塩を食料生産生物の培養に利用すれば、生物の光合成に依存しない食料生産が可能になると考えられるが、まだ実証されていない。

酢酸塩でクラミドモナスを育てられたことが主な内容のようです。 酢酸塩で育てられることは既知ではないのでしょうか?

初期の実験では、酢酸と電解質の比率が0.4以下の廃液では、藻類の生育に寄与しないことがわかった

酢酸で育つと言っても濃度などの要件があるようです。 要件を満たす酢酸液を電気分解でつくる方法が趣旨のようです。

酢酸濃度と電解質濃度の比が0.4M酢酸:1M電解質以上の排水は、暗所でクラミドモナスの生育を可能にした

電解槽で生成された廃液(0.75 M酢酸:1 M KOH)は酵母の増殖を助け、酢酸やグルコースなしで増殖した酵母と比較して、酢酸1 g当たり0.19 gの酵母バイオマス収量を実現し、OD600が9倍、乾燥重量が2倍増加しました

この方法で作成した酢酸液で、クラミドモナスとサッカロマイセス・セレビシエ(酵母の一種)の育成に成功したそうです。 酵母光合成しませんが、通常光合成した植物のグルコースを食べます。 グルコースの代わりに酢酸液で育てられれば、植物を経由する必要がなくなるようです。

グルコースを含まないYPD培地に模擬廃液(0.691M酢酸:1M KOH)を0.5%(w/w)酢酸になるように添加し、アコヤガイ、アブラガイ、ニレガイ、コーラルトゥース、エノキタケ菌糸を増殖させた

(ここは翻訳がおかしそうです。) アコヤナギタケ、エノキタケ、ニセアカシア、ヒラタケは生成した酢酸液ではありませんが同じ成分の液で育成に成功したそうです。 日本ではキノコは広葉樹のオガコで育てているようです*2。 広葉樹が豊富な日本でこのシステムを使うコスト効率はなさそうです。 樹のないドバイでキノコを生産して売ったらワンチャンあったりするのでしょうか?

レタスだけでなく、私たちはさまざまな作物に酢酸が取り込まれることを発見しました。

レタス、イネ、グリーンピースハラペーニョ、カノーラ、トマト、ササゲ、タバコ、シロイヌナズナに関しては、外部から酢酸を吸収することを確認したところまでのようです。 この酢酸液で成長が促進させることはわかっていないようです。

藻類生産では、当社のプロセス(太陽光発電電気分解→酢酸→藻類)は、作物植物の生物学的光合成光合成→作物植物)よりも太陽光からバイオマスへのエネルギー変換効率が約4倍高く

これが 4倍 ってやつですね。 このあとに説明の図があるのですが・・・よくわかりません。

私たちの食糧生産法は、宇宙飛行ミッションや地球上の制御された環境など、高いエネルギー効率と低い物理的空間利用が望まれる用途に理想的である。

感想

「食料生産から光合成を切り離す」というアイデアが面白かったです。 「太陽光発電電気分解→酢酸→クラミドモナス」のプロセスだけでも1ネタになりそうです。 そこにとどまらず、執拗にこのアイデア固執していろいろな植物に実験を広げていくところが面白かったです。 これをするかどうかで論文の価値が変わるのでしょうか?

やはり未来人が食べる食べ物は藻のようです。 星新一の「雨」に次のような台詞がありました。

「そんなことは、俺の責任なものか。むかしの連中が行けないんだ。奴等は自分たちだけ腹いっぱい食ったあげく、なんの対策も残さずに、未来人はクロレラを食えなんてぬかしてたそうだ。ひでえやつらだ。そのクロレラだって、日光のあたらぬこの寒さでは、人口太陽灯でほそぼそと作らねばならん。なんてこった。おればむかしのやつらに、小便でもかけてやりたい」

ひさしぶりに読みなおしたら、これはなんというか、ひどいオチですね。

参考

A hybrid inorganic–biological artificial photosynthesis system for energy-efficient food production | Nature Food

*1:人間もケトン体代謝できるので、生き物の世界では酢酸を食べられるのは割とポピュラーなのかもしれません

*2:https://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/rd/shigen/mori190301.html